小悪魔カレシの甘い罰
「行けるわけないだろ、まだ午前中だぞ」
「あ…低血圧なんでしたっけ」
初日の挨拶で、この時間帯は話しかけるなと、わざわざ告げていたのを思い出す。
あれは新人を解すための冗談かと思っていたが、どうやら本気だったらしい。
「しかもブラインドが下がってる」
「ああやって締め切ってる時は、集中しているか──または、機嫌が相当悪いか」
「または、アレの最中か」
アレって何ですか、と首を傾げると、先輩たちはごまかすように首を振った。
「どれにしても、割り込むには最悪のタイミングだ」
2人は同時に首を垂れた。
「でも、急ぎの仕事なんですよね?」
「そうなんだよ、やべーよ」
先輩たちは本気で困っている。
なら、多少の機嫌の悪さくらい、納期に間に合わないことに比べたら、大したことないのではないかと美桜は思った。
「私、行って来ましょうか」
「ええっ?」
美桜の言葉に先輩たちが硬直する。
そしてすぐに肩を掴み真剣な面持ちで言った。
「やめとけって」
「殺されるって」
「そんな…大げさな」
何も知らない新人が入っていったところで一蹴されるかもしれないが、事情をよく知らないから許されることもあるかもしれない。
「大マジだよ、俺はバッテリーで殴られたことがある」
「俺なんかこの前延長コードで首絞められかけた、あれはない」
信じられないエピソードに、美桜の顔はひきつる。
もしかしてとんでもない上司を持ったのかもしれない。
「それってパワハラじゃないですか」
いくらここが自由な社風で、司が特別な能力を持っていたとしても、そんな横暴許されるのだろうかと思った。
「まぁ…取り方によったらね」
「どう取ったら、パワハラじゃなくなるんですか、それ」