小悪魔カレシの甘い罰
と、そのとき、伊崎社長が通りがかるのが見えた。
ガラス張りのカフェの横を颯爽と歩いていた伊崎が、スタッフに呼び止められタブレットを覗きながら指示を出す。
スタッフが深く頷き、お辞儀をして去り、伊崎が再び歩き出そうとすると、他のスタッフがやって来て再び伊崎を止めた。
いつ見ても多忙な人だ。
それでも嫌な顔ひとつせずに、てきぱきと指示を出す伊崎に、カフェの中にいた誰もが見とれている。
ここの社員はみんな伊崎に憧れているのだろう。
美桜も例外ではない。
真剣な面持ちでスタッフと打ち合わせている姿が凛々しく、思わず見入ってしまった。
「伊崎さん、彼女いるよ」
「えっ」
不意に耳元に声が響き、驚いた美桜は持っていた紅茶を落としそうになった。
振り返るといつの間にいたのか、すぐそばに司が立っていた。
「好きなの?」
屈んで囁く司の顔の近さに、動揺してしまう。
一方の司は、平然とした様子で美桜の瞳を見つめる。
少し切れ長の目が自分を捉えると、思わず顔を伏せた。
「聞いてる?」
さらに顔を覗き込んでくる。その様子はどこか楽し気だ。
悪戯好きなのか、からかっているのか、それとも狙っているのか。
綺麗な顔の男性がいきなり近付いてきたら、どんな女性も照れてしまうだろう。
そうすれば女子が動揺することを彼は知っている。
直感でそう思った。
彼は小悪魔だと誰かが言っていたのを思い出す。
それはあながち噂だけではないことを美桜は悟った。