小悪魔カレシの甘い罰


「き…聞いてます。彼女…いるんですね、伊崎さん」

 うん、と司は頷いて美桜の反応を見ている。


 美桜がショックを受けたと思っているのだろうか。

 司は人の心を動かすのが得意なのかもしれない。

 いいようにも、そして悪いようにも。


 またそこで、司はどSだという言葉も浮かんで納得する。


「ですよね、あんなに完璧な人ですし…。どんな人ですか?」

「え?」

「伊崎さんの彼女さん」

 知り合いですか? と聞く美桜を、司はやや面食らった顔で見つめていた。

 美桜の落ち込む顔が見たかったのかもしれないが、当の本人は平然と話を続けたからだろう。



「グランドプリンスでコンシェルジュしてる人だよ、篠田みのりさんていう人」

 それは一流ホテルで、美桜もよく知っていた。


「彼女の方も才色兼備で素敵な人なんでしょうね」
 
 美桜が素直にそう言うと、司の方はどこか興が冷めた表情に変わった。


「ああ、嫌になるほどお似合いだよ」

「え?」

「大学時代の先輩後輩で、再会したら火がついて、あっという間にカップルになった」
 
 司は何かを思い出したのか、ひんやりとした口調になっていた。


「そうなんですね、なんだかドラマみたい」

 反対に美桜は瞳を輝かせる。

 そんなドラマチックな恋愛が、伊崎には似合うと思ったからだ。


「あぁ、世の中そんなドラマみたいなことあんのかよって、俺も思った。けどあるんだよ」


 他人事のように語る司だが、どこか感情が揺れている。


「そのドラマ、俺、目の前で見たからさ。ほんとやってらんないね」

 その証拠に、急に多弁で早口になっている。
 
 そして態度がどこか投げやりだった。
 
 
 その彼女と何かあったのだろうかと美桜は思う。



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