小悪魔カレシの甘い罰



 彼を失ったことを受け止めきれず、ホームに突っ立ったまま、ただ黙って泣いていた。


 春の夜風が過ぎていく。

 胸騒ぎのするような草木や土のにおいが混じっている。


 強い突風が美桜を包んだとき、ふらりと足が進んだ。

 酔っていたせいもあるかもしれない。



 目眩に似たものを感じて、前のめりになったときだった。



「あんた、馬鹿なのか──」
 

 凛とした声が、耳元に響く。

 同時に、腕を掴まれ、美桜の身体は後ろに引かれた。

 美桜の手を引いた男性の胸元に倒れ込む。



「飛び込む気? 迷惑だ、死ぬならよそでやれよ」





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