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「サンキュー」
隅にあった透明な傘を一本抜くと、俺はドアに手をかけたその瞬間。
「あー…そだ、透哉」
不意に聞こえたテツの声に俺はドアを開けようとしていた手を止め振り向く。
「なに?」
「お前見て思い出したわ」
「なにが?」
「ここに来て女がお前の事、探してたわ」
「女?」
「そう。だれだっけ、名前忘れた。ほら、あのー…だれだっけ、オサム」
「知らねーよ。俺、さっき来たばっかだろーが」
「ま、そう言う事だから。まだその辺にいんじゃね?」
「ふーん…じゃあな」
適当に呟き、店を出る。
出た頃にはさっきよりも大粒で降る雨にため息を吐く。
借りた傘を広げ、俺は足を進めた。
バチバチと傘を打ち付ける雨の音と、地面を叩きつける雨音。
早く戻らねぇと。と思い早々と足を進めた瞬間、
「…透哉っ、」
「……」
あと少しで路地裏に入ろうとした手前で俺の足は不意に止まった。
振り返ると、喫茶店の横のビルから濡れないようにと身体を守っていた小百合が居る。
あぁ、多分俺を探していた女と言うのは小百合だろう。
イチカから聞いてた事を思い出した俺は思わずため息を吐き捨ててしまった。