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「…先輩?」


俺の声で反応した芹奈先輩の身体がビクッと揺れる。

ゆっくりと上がった顔。だけど俺を見た瞬間、その泳いだ目がさっきの事を物語っているように感じた。


だけど先輩は何もなかったようにぎこちなく笑みを漏らした。


「帰ろっか」


そう言って悲しそうに笑う芹奈先輩は俺に背を向けた。

どうして先輩は俺を問い詰めなかったんだろうと思った。

ほぼ聞いてくる今までの女と比べても仕方がないのは分かってる。

それがただ面倒だとずっと思っていた。


だけど今は違う。

何事もなかった様に足を進めて行く芹奈先輩の腕を俺は咄嗟に掴んだ。


「先輩っ、」

「雨、強くなってるし帰らない?」

「なんで聞かねぇの?」

「え、なにが?」

「さっき見てただろ?気になんねぇの?」


そんな事、俺から聞いてどうする。

だけど、芹奈先輩に何もなかったかのようにされるのが逆に辛い。


「だって気にしてたら一緒にいれないよね?」


ゆっくりと振り返って視線を向けてきた芹奈先輩は、また悲しそうに笑う。


「それってどー言う意味?」

「今までそーだったから。あたし、今まで飾りだったんだ」

「なに?俺が先輩と飾りで付き合ってるって言いたいわけ?」

「そうは思いたくない。でも分かんないよね、そんな事。…って、ごめん。もう帰ろ?」

「まだ話終わってねぇから家で話そ。ここに居たら濡れまくる」


俺のその言葉に納得したのか芹奈先輩は何も言葉を発しなかった。

鞄を取りに行って、俺の家まで足を進める。

その間、芹奈先輩は一言も口を開く事はなかった。
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