最恐ドクターの手懐けかた





「私……」



出かかったその言葉を、



「おい」



その低い声が遮る。

そして尚も背を向け震える私に、彼は静かに聞く。




「ありがとうございましたって、何だ」





あー……いきなりバレてしまったんだ。





頰を流れた涙を、そっと拭った。

そして、遠藤先生に背を向けたまま告げる。




「退職することにしたんです……

他にやりたいことが見つかって」




バレないように、バレないようにと必死で平静を装うのに、その声は醜いほど震えている。




「遠藤先生には、お世話になりました」



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