世界が色を失ってから
病院に着くと、充笑が玄関のところで待っていて目の周りは真っ赤に腫れている。


無言で充笑に着いて行った先は病室ではない。


ドアの向こうには、樹の両親の充希と進樹がいる。


充希はベッドに顔をつけ嗚咽を漏らしながら泣いている。


「充笑さん、その、ベッドには誰がいるんですか」


声が震えてちゃんと喋ることができなくなっている


「希咲ちゃん、行ってあげて。」

充笑に背中を押されながらベッドに近づくと視界に入ってくるのは見慣れた人の姿。


「い、つき、、、?」


そこには、今頃デートをしているはずだった恋人、樹がいる。



「なんで、こんなとこにいるの?
、きょう、デートでしょう?」



樹の顔に触れると驚くほど冷たくなっていた。



すると今まで泣いていたはずの樹の母、充希が顔を上げた



「希咲ちゃん、ごめんねぇ、樹起きないのよ。
、死んじゃったの。」






樹が死んだ





その現実が希咲の視界を真っ黒に染めた





「そんな、こと、ありえない、


だって、きょう、デートに、いくって、

あさも、メールしてくれた、



なのに、死ぬはずない!!」



死ぬはずないと声を上げた希咲の手を取り充希は言う


「事故に遭ったの、交差点で。

ごめんねぇ、もう死んでしまったの。


希咲ちゃん、樹いないのよ、、」


また泣き出した充希は希咲の手をぎゅっと握ったまま



死んだ



もういない




それが希咲の中を埋め尽くし、彼女は膝から崩れ落ちた




そんなはずない、声を上げてもう一度言いたいが、目の前の光景と充希の言葉が現実を突きつけてくる。




充希だけでなく、充笑や進樹のすすり泣く声を聞きながら希咲の目からも涙が少しずつ少しずつ、流れ始めた。




流れ始めた涙は止まることはなく、次から次へと溢れる。




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