世界が色を失ってから
「希咲ちゃん。」

さっきとは違った声で充希さんに呼ばれる。

「大事な話があるんだけどね、


樹の物を処分しようと思うの。」


えっ、


「一年経つでしょう、

まだ一年って思うかもしれないけど、これから先樹が戻ってくることはないの。

いつまでもいつまでも、樹の物をそのままにしておくわけにはいかないし、区切りをつけようと思って。」

そうだ、樹の物を残していたって樹が戻ってくることはない

それは分かっている、分かっているけど

「…でも、そんなことしたら、、」

樹が居たことが忘れられてしまうかもしれない。

樹との思い出が消えてしまうかもしれない。

「今年は無理だから、来年になってからしようと思うの。

希咲ちゃんにもその時は手伝って欲しい。

もし、欲しいものがあったら遠慮せずもらって欲しい。

それにね、全部を捨てるわけじゃないの。

きっと希咲ちゃんが考えているのと同じように私たちもあの子との思い出を消したいわけじゃないの。」


充希さんはそう言うと進樹さんと何か話しだした。




みんな思うことは一緒なのだろう

樹を忘れたくない。






だけど、私たちの記憶からは少しずつ消えていく。

それがとても怖い。

いつか、大事にしている思い出も消えてしまうのではないか

いつか、みんなの記憶から樹が消えてしまうのてはないか


怖い。

怖くて怖くてたまらない。



だから、私は死にたくなる。




「樹。」



そう呟いても彼が返事をしてくれることはもうない。


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