恋慕
私は焦って
また手元に視線を戻す。
ああ、そうだった、
彼には
両親がいないんだった。
そう気付いて
「ごめんなさい、
要らないこと聞いたみたい。」
と謝ると、
彼はやはりにこやかに笑って
「いいえ。
僕は今で充実してますから。」
と言う。
「養父の院長先生は
立派な人ですし、
尊敬もしています。
こうして学ぶ機会を
与えられてもいますし、
不満はありません。」
それは
無理をしている風には
見えない。
きっと本心なんだろうと思った。
「それに
汗だくになってる僕は
僕のイメージじゃないでしょ?」
そして彼は
茶化したように言った。
涼しげな顔に
確かに汗や土は
イメージじゃない。
「いやね、背負ってる・・・。」
私は鼻の頭に
シワを寄せて見せて、
私達はいっしょに
声を上げて笑った。