恋慕
その心地好さから
突然我に返ったのは
「先生?」
という
彼の声が聞こえたからだった。
慌てて顔を離して
彼を見ると、
「ご、ごめんなさい。」
とにかく
それしか言えなかった。
自分でも
何が起こったのか
理解できずにいた。
「いえ・・・。
でも、
僕帰ったほうが
いいですよね。」
彼は
緩く握った拳を
自分の口元に当てて言った。
そして早足に私から離れる。
「失礼しました。」
職員室の出入り口で
律儀にこちらに向き直り
頭を下げる。
でも、彼は
私の顔は見ないで
そのまま
出て行ってしまった。
夏休みまで
後3日と迫った
暑さの鬱陶しい
放課後だった。