恋慕

オフィスとの間に
大きな擦りガラスが
一枚はめ込まれている以外は
木目の壁に囲まれた
8畳ほどの空間。
そのさして広くはない空間に
楕円形のテーブルと
黒い革張りのイスが4脚。
木目の壁には
風景画が一枚。
反対側には
大きなフィックスの窓。
部屋の隅には
鉢植えの観葉植物。
他には何もない。

私は先ほどの女性に
暗に示されたとおり
ドアから遠い方のイスに腰掛けた。

髪はきちんとカールしてきた。
メイクもさっき
このビルのエレベーターの中で
チェックした。
アイラインの滲みはない、
口紅も際立ちすぎない色で
キチンと塗った。

でも・・・目元の皺と眉間の皺は
いかんともしがたい。
少々緊張していた。
そう、
初めて会ってからもう16年。
私も歳を取ったわ。

その時
私の左側にある大きな擦りガラスを
黒い影が過ぎた。

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