仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
間近で見ると彼の美しさが尚更際立って見える。
彼の纏うキラキラのオーラに当てられながら、私は頰が上気するのを感じていた。

心臓が、これ以上にないくらいにドキドキする。

今にも飛び出しそうな心臓の上に手のひらを置いて、心をできるだけ落ち着けようと、ひとつ深呼吸をする。

そしてぐっと左手を握りこみながら、二重瞼に縁取られた琥珀色の瞳の青年を真っ直ぐ見据えた。


「――私に出来ること、何でもします! 貴方のもとで働かせてください!」


私はかつてないほど真剣だった。
緊張感で全身が震える。

しかし真摯な気持ちが伝わるようにクライアントとしっかり目を合わせ、絶対に視線を離さなかった。

「どんな役でも構いません。やったことはありませんが……下着のモデルでも、なんでも出来ます! 出来ないお仕事はありません! お願いします!」

社長の前に座る王子様然とした美貌の青年に、必死な思いで頭を下げる。

こんな大胆な乱入をしていながら、私は極度の緊張のせいで瞳がじわじわと熱くなるのを感じた。

真っ赤であろう顔を隠しながら頭を下げ続けていると、「君は……」と青年が小さく呟いた。

私は弾かれたように顔を上げる。

「申し遅れました! 私は『ペルラ』所属二年目の琴石結衣です。なんでもやり遂げる自信があります! 貴方のもとで働かせてください!」
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