仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
「おはよう、琴石。……あらぁ? どうしてって顔ね。この仕事は、本来あなたのようなモデルがオファーされるものではないからよ」

ヒールを鳴らしながら目の前までやってきた芹沢さんは、私を見下したような表情で言った。

確かにあの日あの会議室に私が飛び込まなければ、本来ならば別のモデルがオファーを受けていたのかもしれない。
それを無理やり『下さい!』と掛け合ったのは、他でもない私だった。

彼女の言っていることは正論だったため、言葉に詰まる。途端に萎んだ自信に、弱々しく視線が泳いだ。

「あなたがこのまま『エテルニタ』の花嫁の座に居座るのは認められない」

芹沢さんは、喉の裏から出ているんじゃないかと思うような特徴的な猫なで声で言った。
彼女は慈しみを携えて媛乃ちゃんの肩に手を添える。

「だから私が社長に掛け合って、コンペをしてもらうことになったの。今日撮影した二人分のスチールを、『エテルニタ』のプロモーションチームが審査することになっているわ」

芹沢さんの言葉に戦慄する。

今日はそのコンペ用のスチール撮影が中心だったから『テスト本番』という扱いだったのか。
新郎役の小野寺さんが現場入りしていなかったのは、そのため。
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