仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
苦しいほどの悲しみが溢れ出て全身を巡り、体内ではドクドクと恐怖に怯える心臓の音が反響していた。
じわじわと眼球が熱くなり、鼻の先がツンとする。
……泣いたら負けだ。
俯いたまま歯を食いしばりながらフロアを早歩きで進み、エレベーターの下降ボタンを押す。
少し待っていると到着音がしてドアが開いた。
一刻でも早くこの場から立ち去りたくて、エレベーターに駆け込むと、視界いっぱいに紺色のストライプスーツが広がった。
「おっと!」
「きゃ、ごめんなさいっ」
咄嗟に離れようとして躓いた私を、前方から伸ばされた逞しい腕が支える。
「大丈夫か。現場では走らず、前をちゃんと確認しろ」
低く冷淡な声音に、私は顔を上げる。
ぶつかってしまった相手は、今日ここに来るはずのない新郎役――小野寺さんだった。
「すみません」
謝罪してから、思わずうつむく。
たった一人の信頼できるマネージャーなのに、今は素直に直視することが出来ない。
開かれていたエレベーターのドアが自動で閉まった。
「お前を迎えに来たんだ。帰れそうか?」
小野寺さんはいつもと変わらぬ様子で私に問いかける。
こんな風に普通にしているけれど、彼は今日起きた出来事の何もかもを知っているんだ。
そう思うと悲しくなった。
じわじわと眼球が熱くなり、鼻の先がツンとする。
……泣いたら負けだ。
俯いたまま歯を食いしばりながらフロアを早歩きで進み、エレベーターの下降ボタンを押す。
少し待っていると到着音がしてドアが開いた。
一刻でも早くこの場から立ち去りたくて、エレベーターに駆け込むと、視界いっぱいに紺色のストライプスーツが広がった。
「おっと!」
「きゃ、ごめんなさいっ」
咄嗟に離れようとして躓いた私を、前方から伸ばされた逞しい腕が支える。
「大丈夫か。現場では走らず、前をちゃんと確認しろ」
低く冷淡な声音に、私は顔を上げる。
ぶつかってしまった相手は、今日ここに来るはずのない新郎役――小野寺さんだった。
「すみません」
謝罪してから、思わずうつむく。
たった一人の信頼できるマネージャーなのに、今は素直に直視することが出来ない。
開かれていたエレベーターのドアが自動で閉まった。
「お前を迎えに来たんだ。帰れそうか?」
小野寺さんはいつもと変わらぬ様子で私に問いかける。
こんな風に普通にしているけれど、彼は今日起きた出来事の何もかもを知っているんだ。
そう思うと悲しくなった。