仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
『ペルラ』では何て言われているんだろう。『エテルニタ』では、何て言われているんだろう。
小野寺さんも慧さんも。誰も、私のことなんか期待してない――。

視界が水面の中のように揺れる。

悔しい。全部。悔しい。

声が出ないように必死で唇をつぐむ。
小刻みに震える肩を止めようとするのに、筋肉が言うことを聞かない。

眼球を覆う水の膜が今にも崩壊しそうなところを、ここにいる誰にも、見られたくないのに。


ぱた、ぱた、とハイヒールの爪先に涙が落ちた。


「どうした。おい、泣くな」

私だって、泣きたくてないているわけじゃないです! そう言いたいのに、喉の奥に言葉が詰まって全て嗚咽になる。

小野寺さんは焦ったように私の肩へ手を伸ばした。

「芹沢さんの件は止められなくて悪かった。だがお前のマネージャーとして、俺はあえてお前に伝えない選択を選んだんだ。お前はすぐにプレッシャーにやられるから、不自然な演技にならないように……」

私を慰めるように事のあらましを話してくれたが、今更何を聞いても事務所側の都合の良い言い訳にしか聞こえない。

もし本当に小野寺さんがそう思っていてくれたのだとしても、スカウトしてくれたマネージャーにさえ信頼されていないモデルという事実を突きつけられただけだった。
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