仮初めマリッジ～イジワル社長が逃してくれません～
「そう言われてもね。こちらは撮影日程を変更してまで、キミのところの我儘に付き合ってるんだ。今後のプロモーションに支障がでたら、どう責任とってくれるのかな」

嘲笑を浮かべながら慧さんはハッと笑う。
もうキミには興味がないとでも言うような態度で、慧さんは小野寺さんから視線を外した。

スーツジャケットの内側からスマホを取り出すと、小野寺さんの存在を無視するように電話を掛け始める。

「藤堂、車を回して。彼女を連れてホテル・エテルニタに行く。……部屋は任せるよ。予約を入れておいて」

「常盤社長ッ！」

激昂した様子で小野寺さんが詰め寄った。

「なにかな。僕は琴石さんをホテルのレストランにある個室へ招待するだけだけど」

彼は穏やかな声音で言うと、こてりと首を倒した。

それから「ああ」と、何かに気がついたように口にする。
軽く握った指先で口元を隠すと、小野寺さんを莫迦にするようにクスクスと嗤った。

「小野寺くん、どんな不埒な想像をしたの？　キミさ、もしかして琴石さんのこと――」

「……ッ！」

小野寺さんの目元が恥辱に染まるように赤くなる。

「そんなはずないよね。キミはマネージャーなんだから」

慧さんは酷く美しく微笑むと、「ね？」と小野寺さんに同意を求めた。

小野寺さんは目を見開き、苦悶の表情で顔を伏せた。
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