仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
美青年たちの意味不明なやりとりに私は眉根を寄せた。
小野寺さんは何かを勘違いしている様子だし、慧さんは小野寺さんに言いがかりをつけ過ぎだ。

「常盤社長。早く行きましょう」

ここで立ち止まっていたって仕方がない。
私はスーツの上から慧さんの腕をクイッと引っ張った。

慧さんの家に帰ったら、コンペの件を絶対に問い詰めるんだから! と涙が乾いた顔で闘志を燃やす。

「そうだね。小野寺くん、お疲れ様です」

「小野寺さん、……今日は、ありがとうございました」

ここへ来た時は不機嫌そうにしていた慧さんは、いつの間にか勝ち誇ったような余裕の笑みを浮かべている。

後ろ手にひらひらと小野寺さんへ手を振る彼の背中に、私は慌てて続いた。

私が小野寺さんにもう一度頭を下げようと店舗を出たところで振り返る。

小野寺さんは今にも泣き出しそうな微笑みで、私に手を振った。



藤堂さんの運転する車で連れて行かれたのは慧さんの家ではなく、本当にホテル・エテルニタ東京だった。

慧さんがフロントに声をかけると、すぐに地上三十六階にあるロイヤルスイートルームに通された。
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