仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
慧さんがいつも華やかなゴールドのアスコットタイを結んでいるのは、同じ理由なのかな?

『エテルニタ』を大切にするあまり、起用するモデルの表現力向上を自ら提案し、“婚約者”として同居させてしまうような彼のことだ。きっとそうなのだろう。

そんなことを考えながらスイートルームを探検しているうちに、豪華なルームサービスが運ばれてきた。

悲しみに暮れていても空腹には勝てず、すごすごと着席する。
「いただきます」と手を合わせた後、ナイフとフォークを手に取った。


「久々の撮影はどうだった?」

慧さんは、赤ワインのグラスをテーブルの上でスワリングしながら私に問いかけた。
その穏やかな言い方に、こっちの気も知らないで! と私は唇を噛み締める。

「コンペになるとは思ってもみませんでした。慧さんのこと信頼していたのに、ショックです。これからどうなっちゃうんですか? なんでこんな……っ」

なんでだろう、慧さんを目の前にしたからだろうか。
彼に期待も信頼もされていなかった事実に、今頃になって無性に腹が立ってきた。

ジュレがかかった初夏を思わせる前菜にフォークとナイフを入れながら、慧さんを責める。
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