仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
このホテルの三十階にあるフレンチレストランから届けられるプライベートなディナーコースは、私の心情とは正反対にキラキラと輝いている。

「今日の撮影内容、慧さんは事前に知ってたんですよね」

ジロリと睨むと、慧さんは飄々と頷いた。

「そうだね。昼夜問わず何度も電話をかけてくる芹沢女史の、熱心なアプローチに折れることにしたんだ。僕は絶対に結衣を使いたいから、“そこまで仰るのなら『ペルラ』との契約を破棄します”なんて言えないしね」

……絶対に結衣を使いたい?

媛乃ちゃんとのコンペにした理由を問い詰めてやる! と意気込んでいたのに、彼の答えを聞いてキョトンとしてしまう。

「じゃあ、慧さんが私を見捨てたわけでは……?」

「まさか。そんなこと考えてたの? 向こうに一度リハーサル撮影をさせて、審査した上で琴石結衣を契約続行することにしたって言えば、芹沢女史も大人しく引き下がってくれると思って。
実際に君の撮影時間の方が長いし、向こうは後攻で撮影もスチールのみだ」

そう言って彼は窓の外の夜景に視線を流す。肩を小刻みに揺らすと、可笑しそうにクスクスと笑った。

「まあ、僕にとっても利益になることがありそうだから、コンペの案に乗ったんだけど」
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