仮初めマリッジ～イジワル社長が逃してくれません～

「利益……？」

不穏な言葉に、思いっきり怪しいものでも見るように眉根を寄せる。
慧さんは気にした様子もなく、「うん」と頷いた。

「僕に可愛く泣きつく君が見られるかなって思って。まあ、誤算だったみたいだけどね」

彼は不機嫌そうに顔を歪めると「まさか小野寺くんにとられるなんて」と拗ねるような口調で言って、肩を落とした。

衝撃の事実に、私は思わずカトラリーをお皿に手放す。
僕に可愛く泣きつく、って……！

「な、なんでそんな、大掛かりな意地悪するんですか！」

羞恥心や怒りや呆れなど色々な感情がごちゃ混ぜになって、身体がわなわなと震える。

食事中にも関わらず、私はゴールドのテーブルクロスに両手をついて、ガタリと勢い良く席を立ち上がってしまった。

慧さんは突然立ち上がった私を見上げると、『何を当たり前のことを』という表情をして首を横に倒した。

「君が可愛いからに決まってる。それ以外に何かあるの？」

ひ、酷すぎる！　この王子様、本当にワケわからない！

けれど可愛いと言われて、胸のあたりがきゅうっと締めつけられる。こんなに意地悪をされているのに、赤く染まる頬を止めることができない。