仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
慧さんは「ごめん、許してよ」と言いながら、猫のように首筋に顔を擦り付けた。

「シャンプーの香りがする」

彼の鼻の先が、私のうなじや鎖骨を通る。
身体の香りをかがれているような気がして、恥ずかしい。

ドキドキと大きくなる鼓動が、慧さんに聞こえていないか心配になった。逃げるように身体をよじると、慧さんは私の首筋に顔を寄せたまま、熱い息を吐きながら唇を開いた。

「せっかくだから、今夜の特別授業はキスの仕方を教えてあげる」

「キス!? ひゃあ!」

腰に回されていた腕が、唐突に私を抱き上げた。

そのままベッドに運ばれ横たえられたかと思うと、彼は私をシーツに縫い止める。

「来月はいよいよチャペルでの撮影もあるし。ハワイまで行って、スケジュール押しのリテイクなんてできないからね。
今のうちに上手なキスの仕方をマスターしてくれないと」

慧さんは王子様のような端麗な美貌に、蠱惑的な表情を浮かべた。

「新郎役の小野寺くんに何度もリテイクされるのも嫌だし」

百獣の王が牙を剥くようにうっとりと微笑む。
「目を閉じて」と私に指示すると、ゆっくりと唇を落とされた。

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