仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
「ああ、それか。ただのゴシップ記事だよ。業界のちょっとしたパーティーでね」

どうやら記事の内容は既に把握していたようだ。

広いソファにも関わらず真隣に腰掛け、私の肩に逞しい腕を回す。
それから甘ったるく身体を寄せ、頬へちゅっとリップ音を立ててキスを落とした。

続けて額や鼻の先にも、キスの雨を降らせる。

「け、慧さんっ」

「ん?」

彼は穏やかに首を傾げた。

恋人がいるなら、……こんな風に優しく接しないでほしい。

もしかしたら私が慧さんに愛されているんじゃないかと、本物のフィアンセになれるんじゃないかと――勘違い、してしまいそうになる。

唇を小さく噛みしめる。
ぎゅっと目を閉じ、感情を飲み込んだ。

つとめて明るい笑みに切りかえて、震えが隠せない指先でゴシップ記事の写真を差した。

「アマンダのジュエリー凄いですね! 全部『エテルニタ』って書いてあります」

流石に、慧さんがプレゼントしたんですか? とは聞けなかった。

「オーダーを受けたらしいね。このジュエリーの代表デザイナーは、確か国内外で有名なデザイナーだったはずだよ」

彼は我関せずという興味なさげな態度で飄々と言った。
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