仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
私の回答に慧さんは虚をつかれたような顔をすると、端麗な甘いマスクを歪める。

「ひどいな。僕を差し置いて、よりにもよって小野寺くんか。――最悪だ」

彼は酷く不機嫌そうな声音で低く唸ると、とさり、とソファの上に私を押し倒した。
突然のことに驚き、私は目を見開く。

「君が大好きな小野寺くんの代わりに――今夜は僕が、君を可愛がってあげる」

「い、意味わからないです! 慧さんっ!?」

彼は白いシャツの手首のボタンを、一つずつ丁寧に、ゆっくりと外していく。
それから、もったいぶるような仕草でアスコットタイをするりと引き抜き、床へ落とした。

私の両手を片手でまとめあげて拘束すると、彼は冷血な表情で覆いかぶさる。

「いっ! なにを……っ!」

「いい機会だ。君の言う誠実じゃない男から、アドバイスをあげるよ」

世界中の誰もを惑わすような壮絶な色気をまとった王子様は、まるで軽蔑するような冷酷な視線で私を見下ろした。

「君も、少しはその容姿を利用してみたらいい。もっと高嶺の花らしく振舞えば、君にはいくらでもモデルの仕事が来るようになる」

「そんなのっ!」

別に望んでなんかない! ……とは、言えなかった。お仕事は、欲しい。できれば、可能な限りたくさん。
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