仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
キスに翻弄されている間に、彼の手のひらが下肢の付け根辺りを愛撫する。


私は太腿をすり合わせて、彼の手がこれ以上侵入してこないように抵抗した。

しかし、その抵抗もむなしく、じわじわと甘く疼きだしたそこが、私の意思とは反対に熱を帯び始めている。


……突然、なんで?

こんな、心の準備も、まだなのに……、好きな人との初めてが、心の繋がっていない状態でなんて……っ!


「やっ……っ、こんな、こんなの……! やだぁ……っ」

キスの合間に精一杯の拒絶をすると、慧さんはハッと傷ついたような顔をした。

いつも余裕そうに王子様然とした笑みを浮かべている彼の、こんな表情は初めてだった。



「け、慧さん……あの……わたし……っ」

あまりの様子に、思わずこちらが動揺してしまう。


「……はははっ。こんな思いをするのは初めてだよ」

彼は天を仰ぐようにして、苦虫を噛み潰したかのように苦笑した。

「あーあ。僕がどれだけ我慢してきたと……。全部、小野寺くんのせいだ」

亜麻色の髪を掻き上げながら、不機嫌そうな低い声音で呟くと、苦悶の表情で眉根を寄せた。
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