仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
天井を仰ぎ見ていた彼は――ゆらりと美しく、私を見下ろす。

端麗な甘い美貌には、世界中の誰もが惚れ惚れするような、魅惑的な表情を浮かべている。
その冷たく妖艶な双眸まっすぐ射抜かれ、ドキドキと心臓が早鐘を打った。

それから彼は、まるで淫靡な悪魔のように……うっとりと目を細めた。

「言っておくけど。僕は君のことなんて好きじゃない。だから、僕が君を大切にしているなんて――勘違いしないようにね?」

蠱惑的な唇が弧を描く。
彼はそっと吐息を吐くように、甘い毒を囁いた。


途端に、かぁああっと羞恥心がわきあがる。

かっ勘違いなんて、してない――っ!!

「わ、わかってます! そんなの……、わかってます……っ!」

一瞬で、全てが崩壊した。

彼のことを好きになってしまった自分が、許せない。

悔しくて、悔しくて……たまらない。


私は、泣きだしたいのを必死に我慢して、負けないように、慧さんをキッと睨みつけた。
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