仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
もう慧さんと顔も合わせたくないくらい悲しいのに、彼が普段通り王子様みたいに接してくれることを期待している。

――慧さん、私、こう見えて諦めが悪かったみたいです。

絶対に、慧さんに迷惑はかけないから。
この気持ちを伝えたり、縋ったり、追いかけたりしないから。

『エテルニタ』の花嫁役を演じきり、このお仕事をやり遂げるまで…………あなたを好きでいさせてください。


閉ざされた扉に、そっと手を這わせる。


恋に落ちる時は一瞬なのに。すぐに消えてくれないなんて。

恋心って、厄介だ。




朝食の準備をしていると、ブリティッシュスタイルのスリーピーススーツをきっちり着こなしている慧さんが二階から降りてきた。

お洒落に整えた亜麻色の髪も、華やかに結ばれたアスコットタイも普段と変わらない。

しかし、いつもは煌びやかなオーラを身にまとっている彼の輝きが、僅かに曇っているような気がした。

「……おはよう、ございます」

遠慮がちに声を掛けてみると、彼はいつも通り「おはよう」と優雅な微笑みを浮かべた。
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