仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
「今日から僕は台北貴賓ジュエリーショーの準備で、台湾に向かうことになってる。だからハワイへは一緒に行けなんだけど……チケット類はここに置いておくから。小野寺くんと、向かって」

「そうなんですね……。わかりました」

彼は私の名前が記載されている渡航日程表や電子航空券の控えを、ダイニングテーブルに置いた。

その隣に、台北貴賓ジュエリーショーのパンフレットも添えられる。
表紙には大粒のダイヤモンドとエメラルドが輝く『エテルニタ』の代表的なブライダルジュエリーが掲載されていた。

開催日程は六月七日から十七日と記載されている。
ということは、彼はハワイの撮影を見に来ないのだろう。

「契約終了までは丁度四週間あるし、この家で自由に過ごしていいから」

そう言われて、私は曖昧に微笑んで頷いた。
契約期間中と言えど家主のいない、それもフラれた相手の家に住むなんて、とてもじゃないが出来そうもなかった。


ご馳走様と言って手を合わせ、彼は食器を片付けると、ソファに置いていた革張りのビジネスバッグを手にした。

どうやら今日はもう家を出るらしい。
玄関へ向かう彼のあとを、私も着いていく。

「ねえ、結衣」

「はい?」

美しく磨き上げられたロングノーズの革靴を履き終えた彼は、こちらに向けていた背中をくるりと反転させた。
< 149 / 195 >

この作品をシェア

pagetop