仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~

「僕がもし、――僕を本気で好きになってって、最初から言っていたら。好きになってくれた?」

眩しい光を見つめるかのように細められた二重瞼には、今にも泣き出しそうな琥珀色の双眸が煌めいている。


時が止まった気がした。


彼の瞳の奥に見える、慈愛を帯びているような熱の揺らめきに、ぎゅうっと胸が締めつけられる。

「え、っと、わたし――」

また、意地悪な問いかけなの? それとも、本当の問いかけ? こんな問いかけされても、答えなんて言えるわけない……っ!

慧さんは私の驚きに満ちた表情を見て、「ごめん」と首をゆっくりと横に振る。


「やっぱり、いいや。答えは聞かないでおくよ」

痛々しいほど至極優美な表情で微笑むと、その笑みをかき消すように彼は前髪をくしゃりと掻き上げた。

「行ってきます」

「行って、らっしゃい。……お気をつけて」


「うん。結衣もね」


きっとこれが、慧さんと交わす最後の会話になるだろうと思った。

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