仮初めマリッジ～イジワル社長が逃してくれません～
「……なあ、琴石。お前に話しておきたいことがある」

無言で隣を歩いていた小野寺さんが、ふと切り出した。

「なんですか？」

眩しい幸せを見つめながら返事をすると、彼が私の手首を掴んで立ち止まった。
私も、つられてその場に立ち止まる。

「――常盤社長だけは、やめておいた方がいい」

「へ？」

心の中を見透かされたのかと思って、戸惑った。

小野寺さんは私の恋心を知ってるのだろうか。
それともただ、マネージャーとしてモデルを牽制しているのだろうか。

どちらにしろ、クライアントの噂話をするなんて彼らしくない。

「突然なんの話ですか？」

ははは、と笑ってごまかしてみる。

しかし小野寺さんにはまるで通用していなかった。彼は真剣な表情で、私を正面から見つめる。

「常盤社長について調べてみた。
表向きは経営者として天才的な才能を持つ王子様ってことで通っているが、裏では利用価値が無いと判断したものはすぐに切り捨てる、エゴイスティックな独裁者だと有名らしい」

あまりにも真剣な表情で言われるので、私は眉を下げて「えっと」と言い淀む。
< 157 / 195 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop