仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
酷い振られ方をしたものの、好きになった人のことをこんな風に言われるのは心外だった。

「『エテルニタ』を創業する時には、ハイジュエリーブランドで活躍していた有名なデザイナーやクラフツマンをゴッソリ引き抜いている。
多額の資金を投入して、最高品質のダイヤモンドやエメラルドを独占し、最近では鉱山ごと買収してまで独占しているそうだ。
他者を顧みない利己的で冷血な取引が目立つ。……とにかく、やめておけ」

確かに、慧さんはエゴイスティックで意地悪な王様のような人だけれど、小野寺さんが言うほど悪い人ではない。

仕事に関して言えば……慧さんは毎日とても忙しそうにしていたけれど、家にはそれを持ち込みたくないようで、特に私の前では『結衣を可愛がる時間は、僕の癒しの時間だから』と仕事のことは全く話さなかった。

だから私には、小野寺さん調べた情報の真偽は判断できない。


しかし一つだけ断言できることがある。

やめるもなにも、私の初恋はとっくに終わっているということだ。


「小野寺さんが心配するようなことは、何もないですよ? 大丈夫です」

曖昧に微笑んで『この話は終わり!』という合図を送ったのだが、小野寺さんは眉根を寄せて首を横に振った。
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