仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
「い、いえ、その……はい、実は凄く緊張していて……」

「大丈夫? 大きな仕事かもしれないけど、リラックスして挑んでくれたらいいから」

穏やかな雰囲気をまとう王子様然とした彼は、私を心配するように柔らかく表情を緩ませる。

普通なら、私なんて声すらかけてもらえないはずの超一流企業の取締役。
そんな彼を目の前にして、リラックスして挑めるほどの強いメンタルも立場も持っていない。

私はここへ飛び込んできた自分の勢いが急に恥ずかしくなって、「すみません」と消え入りそうな声で謝罪した。


「それじゃあ琴石さん、これが今回の依頼内容になります」

常盤社長は鞄から新しい資料を取り出し、私の前のテーブルに置いた。

「ありがとうございます。拝見致します」

企画書には、今度エテルニタ・リゾートで新規オープンするチャペルの詳細や、『ペルラ』のモデルを起用した長期に渡るオール媒体撮影の流れなどが書かれていた。


「現在までのホテル・エテルニタに隣接しているチャペルの多くは、ブライダル関連企業と長期リース契約をして業務提携を行っているチャペルと、エテルニタ・リゾートの直営チャペルになります」

常盤社長の低く耳障りの良い美声が、会議室内に優しく響く。
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