仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
「それにしても、なんで慧さんがハワイに? 台湾でお仕事があったんじゃ?」

「結衣の声を聞いたら、いてもたってもいられなくて。すぐに空港へ向かったんだ。仕事は引き継いでるから、問題ないよ」

昨夜の電話した時刻は、台湾では夕方になるそうだ。
二十一時に出発する飛行機を使い、台北とホノルルを結ぶ直行便で約九時間半かけて、ここに来てくれたらしい。

私が会いたいなんて言ってしまったから。

「ごめんなさい、私、慧さんのお仕事の邪魔を……」

「ははっ、全然邪魔なんかされていないよ。
君の小さなお願いくらいで僕が忙しくなったり、手が回らなくなったりするわけがない。
どんな無茶なお願いだって、叶えてみせる自信があるよ?」

彼は抱きしめていた腕を解き、しなやかな手のひらを私の左肩から腕に滑らせると、そのまま左手を握った。


風が吹く。

慧さんの亜麻色の髪が、サラサラと流れるように煽られる。

ふわりと、ウェディングドレスの繊細なレースが舞い上がった。




寄せては返す波の音だけが、響いている。



「……一度は、諦めようと思ったけど。やっぱり、君を手放せそうにないんだ」

彼はまるで『降参』と言うように、フッと口元を緩めた。
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