仮初めマリッジ～イジワル社長が逃してくれません～

地平線の向こうに太陽が沈み、マジックアワーを迎えたビーチには、ハワイの女神ペレの愛を具現化したような淡いピンク色のロマンティックな空が広がっている。

空の天辺には薄く淡い夜の帳がかかり、ダイヤモンドのように白く煌めく星が、幻想的に浮かび上がっていた。


彼は王子様のように美しく跪くと、私を見上げた。

「僕は――君にだけは、誠実な男でありたい」

そう言って、微かに口角を緩める。

「だから。今この瞬間をもって、僕たちの間にあった独占契約を終了しようと思う」

「え……？」

白浜に寄せる波音が、響いている。

慧さんは私の左手から、撮影用のマリッジリングを抜き去った。




彼は、まるで眩しい光を見つめるように、私を見上げた。


「君に誓約書へサインを迫ったあの時から――僕は君が欲しかった」


静寂を溶かすような、柔らかく誠実な声音は、私の耳朶だけでなく全てを痺れさせる。

「結衣の正直で変に真面目なところとか、背水の陣で後先考えずに突っ込んでいくところとか……僕の加虐心をそそるんだよね。
あの時から、僕は、君の頭の中を僕でいっぱいにしてやりたくて、必死だったんだ」