仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
「これは、僕が君だけのためにデザインした指輪なんだ」

「…………っ!」

じゃあ、慧さんはあの時から、私を知っていたってこと――?

あまりの出来事に私は右手で口元を押さえ、息を飲んだ。

「結衣。僕たちが一緒に過ごした時間は短いかもしれない。だけど、君のことが――たまらなく愛おしい」

感極まった双眸がじわじわと熱くなる。目の前の幻想的な景色がゆらゆらと揺れた。

慧さんは、私の左手をキュッと優しく握った。


「僕を本気にさせる人は君しかいないんだ。……僕の、本物の婚約者になって」


想像もしていなかったお伽話のようなプロポーズの言葉に、全身が喜びに打ち震えている。

「……はいっ、……もちろんです!」

慧さんは私へ甘く微笑みかけると、エンゲージリングを取り出し、そっと私の薬指へ滑らせた。

立ち上がった彼は、私を性急に引き寄せて抱きしめる。

「やっと捕まえた。どうしよう――嬉しくて、死にそうだ」

耳元で言われたくすぐったい程の愛の囁きに、胸がきゅうっとときめいた。

慧さんは、はあ……っと熱い溜息を吐く。


赤く眩しく燃える太陽が海の向こうに完全に溶ける瞬間――彼は私の瞳を覗きこみ、愛を誓うように唇を重ねた。

< 177 / 195 >

この作品をシェア

pagetop