仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
「片想いはどんどんしたら良いけど、お付き合いはね。モデルが有名になった時に、写真をネットにばら撒かれたりするから」

そう言って社長は、慧さんと初めて出会ったあの時のように、私へ契約書を見せた。

通常、契約の更新や相談に乗るのはマネージャーの担当だが、今この会議室には私と社長の二人しかいない。

「小野寺さんは……?」

もう会うこともないだろう。だからこそ、感謝の気持ちを伝えたかった。

「小野寺は今日他の仕事があるから、そっちに付きっ切りなの。“最後なのにすまない”って言ってたわ」

「そう、ですか」

小野寺さんとは顔を合わせにくいと思っていたけれど、彼も同じ気持ちだったのかもしれない。

就職先が見つからなかった私を、モデルとしてスカウトしてくれたのは小野寺さんだった。それなのに、こんな、恩を仇で返すような結果になってしまい、大変申し訳なく思った。

「琴石とは『エテルニタ』の案件から、濃い時間を過ごしたから。なんだか寂しくなるわね」

「本当に、お世話になりました」

捺印した書類を提出し、頭を下げた。
これをもって、私は『ペルラ』のモデルとしての活動を休止することになる。
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