仮初めマリッジ～イジワル社長が逃してくれません～

「ホテル業界のパーティーだよ。彼女が僕の婚約者ですって、みんなに自慢しないと」

お皿洗いをしている私の後ろに立った慧さんは、クスクスと楽しそうに微笑みながら、私の腰に腕を回した。

首筋に猫のように顔を埋めたり、擦り寄せたりする慧さんの鼻先がくすぐったい。

「ひゃっ、もう！　お皿洗えないですよ？」

こんな高級なお皿、手を滑らせて割りでもしたら大変だ。
慧さんは「うーん、もう少し」となんて言いながら、薄着の私の肩を柔らかく食む。

「やっ！　慧さん！」

「だって、幸せなんだ。君がここにいることが」

背後からギュッと抱きしめられ、私は洗剤の付いたスポンジを持ったまま、赤面して俯いた。


パーティーだから！　と気合を入れてウォークインクローゼットの中をウロウロしていたら、「今日はこれを着てよ」と、彼は高級ブランドのドレスを取り出した。

シルク生地の滑らかな艶が美しいエメラルドグリーンのドレスは、普段なら着れないような優美なもの。

衣装でだって着られないそれを受け取りながら、思わず「わ〜っ！」と感嘆の声を上げてしまった。