仮初めマリッジ～イジワル社長が逃してくれません～
今にもとろけそうな光沢が美しい薄紫色の翡翠のブレスレットは、翡翠に詳しくない私でも希少なものだとわかる。

「わあ！　ありがとうございますって伝えて下さいね」

「うーん。そうだね、いつか」

「えーっ」

慧さんは口元をへの字に曲げて拗ねたような表情で外方を向いた。
彼にこんな表情をさせるなんて。きっとジュエラー同士、仲良しなんだろうな。

慧さんの子供っぽい仕草が可愛くて、くすくすと笑ってしまった。


十四時頃、玄関のチャイムが鳴った。
慧さんが予約していたらしいヘアメイクのプロが、メイク道具の詰まったトランクを持ってやってきた。

「それでは宜しくお願い致します。ケープお掛けしますね」

私の部屋のドレッサーを使い、綺麗にメイクやヘアセットを施してもらう。

みるみるうちに、慧さんとパーティーに行くのに相応しい女性になれる魔法をかけてもらった。


予定していた時刻までに準備を終え玄関先へ出ると、慧さんの愛車がすでに車庫の前に出ている。

運転席には、秘書の藤堂さんが乗っていた。
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