仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
こんな大役を笑顔で私に任せてくれた王子様を、失望させるわけにはいかない。

打ち合わせが終わったらすぐに台本を読み込んで、しっかり練習を重ねよう。
私は胸に手のひらを当て、一人で頷いた。


「琴石、このお仕事はハワイでの撮影を含めた長期に渡るオール媒体契約になるの」

隣に座る社長が、私の方へ顔を向けた。

挙動不審な私を目に映すと、眉根を寄せる。
社長の顔には『本当にこの子で大丈夫かしら?』とハッキリ書いてあるように見えた。

「あなた海外での撮影は初めてでしょう? これから忙しくなると思うから、パスポートは早めに用意しておきなさいね。持っている場合は有効期限に気をつけて」

「わかりました! パスポートは一昨年作ったばかりなので、期限も大丈夫です」

大学生の時に友人達と卒業旅行で使用して以来のパスポートは、十年間の有効期限が切れるまで使える機会もお金も無いと思っていた。

それがまさか、お仕事で使えることになるとは。
予想だにしていなかった事態に胸が踊る。

しかも撮影地は憧れのハワイ! 家に帰ったら、すぐにパスポートを探さなくちゃ。

私は口元が緩んでいるのにも気づかずに、脳裏にハワイで過ごす夢の時間を描いた。
< 19 / 195 >

この作品をシェア

pagetop