仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
小野寺さんはますます眉根を寄せ、まだ何か言いたげな様子をしたが、どうやら飲みこんだらしい。
悲しげな表情は今や無表情に戻っていた。

彼は何事も無かったように受付のスケジュールボードを確認すると、「どの部屋も空いていない。今日は駄目だな」と口にした。

「では日を改めて、小野寺さんのご都合の良い時間にお伺いします」

「いや。送るついでに話を聞こう」

「いいえ! また事務所に来ますので!」

私はマネージャーに送ってもらうようなモデルではない。

それに小野寺さんが担当しているモデルは私一人だけじゃない。いつだって忙しい彼の手を煩わせたくなかった。

しかし小野寺さんはふっと小さく微笑みを浮かべて、首を緩く左右に振った。

「琴石が俺を呼び出すなんて、滅多な事なんだろ。話は車の中で聞く。もう帰れるのか」

「はい。では……お願い致します」

大変申し訳ないと思いながらも、今回はお言葉に甘えることにした。
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