仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
私は「それでですね」と話を戻すと、改めて会議室に飛び込むまでのあらましを話すことにした。
 
「まだ東京で頑張りたいなら、そっちに居ても良いよって言ってくれた両親のためにも、お金に関する心配はかけたくなくて。色々考えていたんですが、もう自分からお仕事をもらいに行くしかないな! と思って」

「なるほど。それでうちの社長と常磐社長が会議中に、突然飛び込んだのか」

乗っている車が、赤信号で停車する。
今までこちらを見ずに運転していた小野寺さんが、冷淡な顔つきで私を一瞥した。

「無鉄砲にもほどがあるな。もしお前のせいで重要な案件が破談になっていたら、どう責任とるつもりだったんだ」

冷静に考えれば小野寺さんの言う通りだった。
思わずハッと小野寺さんを仰ぎ見て、急いで頭を下げる。

「すみません、そこまで考えが至らず」

これからどうやって生活していくか、どう崖っぷちがら脱出して生きているかばかり考えていたせいで、まさか破談になることまでは考えていなかった。

自分のことばかりしか考えていなかったことを、深く反省する。

「寛大な対応をしてくださった常盤社長には、本当に感謝しています」

「次は飛び込みなんてするなよ。今回は相手が良かっただけだ」
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