仮初めマリッジ～イジワル社長が逃してくれません～

「はい。肝に銘じておきます……」

青信号になり車が走りだす。
車は私の住むマンションの近隣までやってきた。

「常盤社長からいただいた契約内容についてなのですが、オール媒体の長期契約をいただきました」

私はバッグから資料を取り出し企画と契約の内容を読み上げた。

既に契約書にサインを済ませたこと、大まかな流れが記されている予定表や台本なども受け取っていることも伝える。　

ハワイにある『エテルニタ・ワイキキビーチ・リゾート』での撮影を含んでいると説明すると、「凄いな」と小野寺さんが感嘆の声を上げた。

「琴石に大きな仕事が貰えたのは嬉しいことだが」

私の住むマンションの前で、停車する。
小野寺さんはシートベルトを外すと私へ向き直った。

「俺のせいで済まない。琴石の人生をこんな風にして、恨まれたって仕方ないな」

彼の眉目秀麗な顔に、深く眉間のシワが刻まれた。

「いいえ！　恨むなんて絶対にないです！」