仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
衣装を着る順番をシーン毎に確認しながら試着する。
その後ヘアメイクさんにメイクを施してもらい、ヘアスタイルを整えてもらった。


今日の撮影のシーンは大きく分けて二つ。
『オーダーリングのデザインをするシーン』、ブライダルサロンで『新郎新婦が打ち合わせをするシーン』だ。

準備を終え、エレベーターを使って一階の撮影現場に下りる。

撮影機材を最終調整しているスタッフさん達の邪魔にならない場所に立って、自分の名前が呼ばれるのを待った。


そう言えば、新郎役は誰なんだろう?

待っている間にシーンの絵コンテを確認しながら首を傾げる。
周囲を見回してみるも新郎役らしき男性は来ていない。

私が準備中に現場入りしたのかな? 

タキシードショップはこのビルの五階だったはずだ。
きっと今は、そこにあるフィッティングルームを使用しているのだろう。

あとで挨拶しなきゃ。
現場を一通り見回して、私は再び絵コンテへ視線を戻した。



それからほどなくして、店内の奥にあるエレベーターからポーンと上品な到着音が鳴る。

「お待たせしました」

エレベーターから出てきた人物に目を留めて、私は目を見開いた。

「新郎役の小野寺 薫(かおる)です。宜しくお願い致します」

とてもお洒落な私服姿風のマネージャーが、普段見たこともないような爽やかな笑みを浮かべる。

その表情はまるで別人と言ってもいい。完璧なプロのモデルだ。
< 39 / 195 >

この作品をシェア

pagetop