仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
デザイナーさんとの打ち合わせシーンでは、数枚のデザイン画がテーブルに並べられた。
途中まで仕上げられているそれに、デザイナーさんが鉛筆で加筆していく。

紙と鉛筆で出来た世界の間に、美しいエンゲージリングが浮かび上がる。
センターストーンのダイヤモンドを中心に、小粒のダイヤモンドがキラキラと輝く様子がすぐにイメージできた。

「凄いですね、本物みたい」

「ありがとうございます。このデザインは『メレ』と言うんですよ」

メレはダイヤモンドの配置次第で多数のアレンジが効くので、人気のデザインなんだそうだ。

繊細で柔らかな黒線が白い画用紙の上で踊る様子を、私は夢中で眺める。

「こんな婚約指輪が好みなのか?」

指輪を指差し、小野寺さんがふんわりと優しげな笑みを浮かべながらこちらを見た。

「どんなデザインでも女性にとって“婚約指輪”は憧れですよ。こっちのデザインも好きです」

私はテーブルに広げられた他のデザイン画を手に取る。

「そちらは『ソリティア』というデザインなんですよ。高い爪で固定することで、ダイヤモンドを一番美しく魅せてくれます」
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