仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
ウェディングドレス試着用の全身鏡の向こうには、これ以上にないほど顔を真っ赤にした私が涙目で立ち尽くしていた。
自分の林檎のような顔を隠すように、急いで両手のひらで頬を押さえる。
唐突にキス、なんて。なんで? 意味わからない……!
きゅうっと胸が痛くて身体中が熱い。
先ほど常盤社長が出て行ったばかりのドアが、ガチャリと音を立てて開いた。
常盤社長が戻って来たのかと思い、涙目のまま顔を上げる。予想していた相手ではなく、小野寺さんが室内を覗きこんだ。
「こんなところにいたのか。そろそろ撮影再開だ。準備は――」
小野寺さんは私と目が合うと、その目を大きく見開いた。
彼は切なく苦しそうな表情で顔をしかめ、シャツの心臓のあたりを鷲掴む。
私の頭の中は、なんでここに小野寺さんが!? という驚きでいっぱいだった。
未だかつてないほど真っ赤になった顔を誰かに見られるなんて……!
羞恥心に駆られすぐに顔を伏せた。
「あっ、その、準備、大丈夫です! 今、行きますので」
もごもごと返事をしながら、テーブルの上に置きっぱなしになっていた印鑑の入ったポーチを掴み背中に隠す。
それからヒールが滑るのもお構いなしに、走って小野寺さんの横をすり抜けた。
「おい、琴石!」
ドキドキと鼓動が耳の中で反響して何も聞こえない。
私は慌てふためきながら、この不思議な空気が蔓延する部屋から逃げ出した。
自分の林檎のような顔を隠すように、急いで両手のひらで頬を押さえる。
唐突にキス、なんて。なんで? 意味わからない……!
きゅうっと胸が痛くて身体中が熱い。
先ほど常盤社長が出て行ったばかりのドアが、ガチャリと音を立てて開いた。
常盤社長が戻って来たのかと思い、涙目のまま顔を上げる。予想していた相手ではなく、小野寺さんが室内を覗きこんだ。
「こんなところにいたのか。そろそろ撮影再開だ。準備は――」
小野寺さんは私と目が合うと、その目を大きく見開いた。
彼は切なく苦しそうな表情で顔をしかめ、シャツの心臓のあたりを鷲掴む。
私の頭の中は、なんでここに小野寺さんが!? という驚きでいっぱいだった。
未だかつてないほど真っ赤になった顔を誰かに見られるなんて……!
羞恥心に駆られすぐに顔を伏せた。
「あっ、その、準備、大丈夫です! 今、行きますので」
もごもごと返事をしながら、テーブルの上に置きっぱなしになっていた印鑑の入ったポーチを掴み背中に隠す。
それからヒールが滑るのもお構いなしに、走って小野寺さんの横をすり抜けた。
「おい、琴石!」
ドキドキと鼓動が耳の中で反響して何も聞こえない。
私は慌てふためきながら、この不思議な空気が蔓延する部屋から逃げ出した。