仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
仕事の電話だろうか。彼はスマホを耳に当て、美しいクイーンズイングリッシュを喋っていた。

亜麻色の髪に揺らめくように夕焼け色が反射している。
その光景は、まるで海外ドラマのワンシーンのように絵になっていた。


誓約書にサインはしたものの、まさか本当に常盤社長自ら迎えに来るなんて。
あの独占契約はやっぱり現実だったんだ……。

これから始まるであろう意地悪な王子様との生活を考えて、ひっそりと身構える。トクリとときめくような鼓動には、知らないフリをした。



彼は私が来たのを認めると視線をこちらへ向けた。

流暢な英語を操り電話の相手に別れの挨拶を告げると、長い睫毛を伏せながら電話を切る。
そして、まるで眩しい光でも見るように、私に向かってやわらかく目を細めた。

「おかえり、結衣」

突然向けられた甘い表情と本来ならば私が言われるはずのない言葉に、不覚にもぐっと胸が詰まる。

ドキドキと鼓動が激しくなるのを感じて、顔を伏せた。

「すみません、常盤社長。お待たせしてしまいました」

困惑しつつ視線をうろうろさせる私の頭に、側へ来た常盤社長が大きな手のひらを優しく乗せる。
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