仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
まごつく私に小野寺さんは厳しい形相で歩み寄ってくると、私の手首を握った。

「ほら行くぞ」

引っ張られて、たたらを踏む。
そんな私たちの様子を、常盤社長が愉快そうな表情で見下ろした。

「残念だけど、彼女はキミと帰りたくないみたいだ」

私の胸元に流れる髪を常盤社長が指先で一房拾い上げる。すっと毛先の方へ梳きながら、小野寺さんの目の前で口付けた。

さらに煽るように常盤社長の双眸が細められる。
小野寺さんは苦悶する様子で眉根を寄せ、彼を睨み返した。

「彼女はうちのモデルです。触らないでくれますか」

手首を握る小野寺さんの手にぎゅっと力が入る。

「いっ、痛いです、小野寺さん」

「すまない」

彼は弱り切ったような声音で謝罪した後、慌てたように手を離した。



長身な美青年たちが無言で互いを牽制するかのように睨み合う。
二人の間には、緊迫した静寂が流れている。

小野寺さんより身長が高い常盤社長は、小野寺さんを見下ろしながら、まるで彼を煽るように口元に弧を描いた。


「えっと」

どうしよう。なんて答えたらいいのかも、どう動いたらいいのかもわからない。

小野寺さんに、クライアントと直接契約を結んだことがバレたらまずいし……。
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