仮初めマリッジ~イジワル社長が逃してくれません~
エレベーターの中で漸く地上に足をつけることができた私は、常盤社長にお礼を言ったらいいのか、文句を言ったらいいのかわからずにいた。
「送っていくなんて大嘘吐いちゃったな。彼の大事なお姫様を、僕のお城へ攫っていくところなのに」
彼はそう言ってクスクスと微笑む。
確かにマネージャーからモデルを堂々と攫えるのは、この人しかいないかもしれない。
撮影現場を出たところに、一台のメルセデス・ベンツが止まっていた。
ワックスで磨き上げられた滑らかな白いボディの高級車は、夕暮れ時の雰囲気と相まって耽美な存在感が増していた。まさにこの王子様に相応しい白馬だ。
常盤社長が近寄ると、運転席から黒いスーツ姿の男性が降りてきて後部座席の扉を開く。
「結衣様、お帰りなさいませ。お疲れ様です」
精悍な顔立ちの青年は、私に向かって丁寧に礼をした。
私はぎこちなく頭を下げる。
「彼は秘書の藤堂(とうどう)。下の名前は呼ぶこともないだろうし、覚える必要もないよね?」
随分な紹介をされたのにも関わらず、藤堂さんは真面目そうな表情を一切崩さない。
それどころか「はい」と常盤社長に従うように返事をした。
「送っていくなんて大嘘吐いちゃったな。彼の大事なお姫様を、僕のお城へ攫っていくところなのに」
彼はそう言ってクスクスと微笑む。
確かにマネージャーからモデルを堂々と攫えるのは、この人しかいないかもしれない。
撮影現場を出たところに、一台のメルセデス・ベンツが止まっていた。
ワックスで磨き上げられた滑らかな白いボディの高級車は、夕暮れ時の雰囲気と相まって耽美な存在感が増していた。まさにこの王子様に相応しい白馬だ。
常盤社長が近寄ると、運転席から黒いスーツ姿の男性が降りてきて後部座席の扉を開く。
「結衣様、お帰りなさいませ。お疲れ様です」
精悍な顔立ちの青年は、私に向かって丁寧に礼をした。
私はぎこちなく頭を下げる。
「彼は秘書の藤堂(とうどう)。下の名前は呼ぶこともないだろうし、覚える必要もないよね?」
随分な紹介をされたのにも関わらず、藤堂さんは真面目そうな表情を一切崩さない。
それどころか「はい」と常盤社長に従うように返事をした。