仮初めマリッジ～イジワル社長が逃してくれません～

「さ、乗って。僕たちの家に帰ろう」

「よ、よろしく、お願い致します」

常盤社長に促されるまま、藤堂さんがドアを開く車に乗り込む。
私は緊張で全身を強張らせながら革張りのシートに着席した。



藤堂さんが運転手を務める車が閑静な高級住宅街に差し掛かった頃には、既に夜になっていた。

とある大きな邸宅の前で車が一時停止する。
電動式の大きな門が内側に開き、車が敷地内へ進んだ。

車を降りてその建物を見上げる。
半ば強引に招かれた常盤社長のご自宅は、立派な一戸建の高級住宅だった。

お金持ちはタワーマンションに住んでいるとイメージしていたので、高級住宅街の一角にあるシックでモダンなデザイナーズハウスに到着するとは思ってもいなかった。


敷地内の車庫には、高級車ディーラーかと思えるほど様々なメーカーの高級車がずらりと並んでいる。

今日乗せてもらったあの車は、その中のたった一台にすぎなかったなんて。
驚愕しながらまじまじと見つめた後、常盤社長の背中について歩く。

「ここにはご家族と一緒に住まわれているんですか？」

「まさか。毎日決まった時間にハウスキーパーや藤堂が来るけど、基本は僕一人で住んでるよ」