仮初めマリッジ～イジワル社長が逃してくれません～

「結衣、今日からここは君の家でもある。好きに羽を伸ばしてくれていいからね。これから一生住んでくれたって構わないよ」

邸宅内に招き入れられ、まるで王子様がお姫様にそうするように優しく穏やかに微笑まれる。

「えっと、その、ありがとうございます。宜しくお願いします」

私は毒気を抜かれて、それ以外何も言い返せなかった。


壁一面に大理石が貼られた上品で落ち着いた玄関は、開放的な二層吹き抜け天井になっていた。

ヒールを脱ぎ揃えるとすぐにドアノブのない扉が目に飛び込んできたが、きっとこれはシューズクロークなのだろう。

私の家の間取りだったら、この扉の向こうは絶対にトイレだ。

玄関からあまりの豪邸っぷりに圧倒されて、思わず現実逃避をしてしまう。


ピクチャーレールにはいかにも高級そうな絵画が飾られており、ダウンライトがそっと絵を照らしていた。

廊下を歩いていると、どこからか夕食のような良い匂いが漂ってくる。

「今日は君との初めてのディナーだからね。ホテル・エテルニタ東京からシェフを呼んだんだ」

得意げな表情で片目を瞑ると、彼は部屋の扉を開けた。